カワなかjuku

田舎の塾の人です。

「大失敗」

 

まだ肌寒い3月上旬のことでした。当時の僕は数学や理科をメインで指導しており、英語の指導を始めてからさほど時間が経っていませんでした。ちょうど受験もひと段落して、新しい学年での授業が始まって間もない頃。新しく中学1年生になった生徒と話しているときに、彼が質問をしてきました。「雲梯って英語で何て言うの?」

 

真っ青になりました。あらゆる単語を思い出しましたが、知らないものは出てきません。口をついて出たのは「知らないなぁ…。」の一言でした。そのときの、彼の、興味が一気になくなっていく顔を見ていると、身を切られるような苦痛を感じました。まるで誰かに、英語の先生じゃないの?、と言われているような気分でした。彼が英語への関心を一時的にでも失ってしまったのは間違いなく僕の責任です。

 

高校生からの質問はさほど怖くありません。東大志望の生徒の指導もしましたが、どれも英語の指導者をヒヤヒヤさせるようなものではありませんでした。しかし、まだ英語を何も習っていない生徒からの質問は、どんなものが飛んでくるのか想像できません。身近にあるものの英語名かもしれませんし、会話で何気なく使う表現かもしれません。本当にコワイのは何も知らない状態での、好奇心と関心に満ち溢れた、純粋な知識欲からくる質問だと思うのです。そして、それに答えを提示出来ないことです。

 

この経験が、「僕が生徒ならばどのような先生に習いたいか」を再考するきっかけになりました。僕は、「普通に英語を使えて、話せて、文法事項についても入試についても詳しい先生に習いたい。」と思ったので、そうなることを決めました。どこかに甘えがあったのだと思います。塾の先生だからスラングはあまり知らなくていい、日常的に使う単語でも入試にはあまり関係しないから知らなくてよい、と。僕が一番嫌いな先生になりかけていました。それでは英会話教室の先生方に「文法と入試だけか」と思われても仕方ありませんよね。英会話教室の先生方は、教師や塾講師が知らない様々な表現をご存知ですので、負けたくない、と思っていたはずですが。この時の僕はどうやらそれを忘れてしまっていたようです。英語の指導者である以上、どの方面のことでも知っておかなければなりません。塾講師は口語表現や日常で使う英単語を知らなくてもよい、というのはもう通用しないでしょう。

 

僕は仕事なので英語を勉強しています。英語は面白いと思いますし、興味をそそられる場面は毎日あります。しかし心の底から英語を好きか、と聞かれると、答えはNoです。ありとあらゆる表現や流行を勉強している一番の理由は、生徒の英語への興味をなくさないためです。たった3秒で今後が決まる場面がある、と言っても決して過言ではないと思います。教科書で、どの表現がどの単元で出てくるか、を覚えておくことは大前提ですが、生徒がふいに「知りたい」と思うのは別の部分かもしれません。先日はある生徒が、BTSの『Butter』の歌詞について質問をしてきました。勿論、歌の人気が出始めた時点で、歌詞は全部覚えておいたので、無事解決しました。そのときに眠そうな顔が一気に晴れ、その後意欲的に取り組む姿を見て、以前感じたものとは別の感情を感じました。

 

きっかけはどこに潜んでいるのかわかりません。彼らの興味は今流行っているものの中に隠れています。指導者が難しいと思う単語でも、実はゲームに隠れていたり、歌の題名や歌詞になっていたりと、生徒にとっては意外と馴染みがあるものも存在します。それを上手く使ってあげることが、僕が渡せる最大のプレゼントかな、とも思ったりするのです。

 

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

 

カワなか